ポイント1: 全国で “ 超一流 ” でも、江戸川では “ 並み ”?

全国のレース場の中で、ライブ感覚でレースを観戦できるのが江戸川だろう。何年か前までは「リバーサイド STADIUM」と呼ばれていた。1マークでボートが接触する音が聞こえてくるほど、水面とスタンドが近い。中川の堤防沿いに造られたスタンドから手を伸ばせば水面に手が届くほどである。水面に面した1マークの堤防スタンドを“江戸川の特等席”と呼んでいるファンも多い。

そのスタンドから展示航走を観察すると、ターンの挙動が全て分かる。特に波立ったような水面だと、ターンの優劣が顕著に表れる。
「モンキーをやっていないぞ」「レバーを落としすぎじゃないか」そんな観客からの声が聞こえてくる。波立った水面で果敢にアタックしている選手は、実戦になると確実に上位着順に絡む。走りにくい水面になればなるほど、周回展示で見せるターンの巧拙が着順に反映する。

江戸川ではGW開催から新プロペラ制度がスタートした。全国的な傾向だが、これまで「超」がついていた一流選手が予選落ちするという、信じられない光景を目にするようになってきた。改めてプロペラの威力というものを再認識させられたが、江戸川に限って言えば、そんなことはずっと前から起きていた。

一流選手が、前検タイム計測時に“波が出た”というだけで後続艇から抜かれた。わずか150m区間の計測で、一番時計から2秒も遅れた選手もいた。コンマ2秒ではない、2秒である。前検一番時計6秒65に対して、ワーストタイムは9秒04。8秒66という選手もいた。それが「超」のつく一流選手だから驚く。江戸川で実績を残している選手は、前検日のタイム計測でも早いタイムを出してくる。

ポイント2: 専用の調整が必要な江戸川は経験がモノを言う!

江戸川では、“全国勝率よりも当地勝率”といったボートレース格言どおりのことが起きる。どんなに他のレース場で実績を残していても、江戸川に来れば“並”でしかない選手も多い。超一流と呼ばれている選手が、江戸川で走れば“並”になってしまう理由の一つに挙げられるのが、プロペラである。江戸川の水面状況に合うプロペラがないということだ。

江戸川で使用しているボートは、他のレース場よりも全長が長い。波消しの役目をするキャビテーションプレートの幅も広い。水面も絶えず動いており、水をしっかりとつかむプロペラ調整が必要である。

今回の出場選手で、最近5年間に100走を超える選手がいる一方、1節しか走っていない選手が何名かいる。江戸川でほとんど走っていない選手は、江戸川仕様のプロペラなど持っていない。新プロペラ制度になるとプロペラゲージに当ててプロペラ調整をするが、江戸川仕様のプロペラゲージがないと厳しい。それが成績に現れてくる。

ちなみに、江戸川で最近5年間に100走以上している選手は、熊谷直樹、山田竜一、石渡鉄兵、飯山泰、永井源、若林将の6選手で、優勝が2回以上あるのは、熊谷直樹荒井輝年石渡鉄兵平尾崇典飯山泰横澤剛治重野哲之湯川浩司若林将である。

ボートレース専門紙にも「江戸川特別紙面」というものが企画されている。例えば「ファイティングボート・ガイド」のコラム「カッパのつぶやき」が人気だ。1号艇でインを取ったときに、勝率以上のレースをする選手など、“隠れ江戸川巧者”を探す上で貴重なデータを提供してくれる。

ポイント3: 「好気配モーターのバトンタッチ」は期待薄

新プロペラ制度がスタートして、選手相場について白紙で見なければならなくなったように、江戸川でも選手相場を一度白紙に戻して見なければならない。自然との共生を求められる江戸川の競走水面で、誰が上手く対応しているのか。それを見つける作業が要る。

水面近くで観戦する場合に注目するのは、乗艇姿勢である。絶えず動いている水面だけに、姿勢を固定していては危急の動きに対応できない。直線ではつま先立ちして重心移動をしやすくする、ターンではボートが暴れないように制御するなど、柔軟な立ち回りが求められる。特に水面が荒れているときば、レバーを握って攻めるのではなく、ターンマークを外さない走りの方が好結果を生む。

4月の「外向発売所オープン記念男女W優勝戦」では、鈴木詔子が1節に1着1本、2着4本、3着2本、着外2本の好成績で約1年ぶりに選抜戦を走った。小回りするだけで、他の選手が勝手に流れていく。江戸川の走り方を示唆してくれる良い例である。

新プロペラ制度がスタートしたが、江戸川に関しては、実績モーターを手にした選手が無条件で活躍するといった「好気配のバトンタッチ」といったことは起きないだろう。江戸川で実績を残してきた選手に、実績モーターが当たった場合にのみ「好気配のバトンタッチ」が起きると考えておきたい。

(桧村賢一/マンスリーBOAT RACE・主筆)